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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)795号 判決

被告人

一法師博

主文

原判決を破棄する。

本件を原裁判所に差戻す。

理由

檢察官の控訴趣意第一点について。

原審における被告人並びに証人古賀高典の各供述並びに司法警察員に対する被告人の各供述調書中被告人の供述記載を綜合すれば、被告人は昭和二十四年五月十一日夜当日右古賀高典との間に売買の話合を進めていた衣料品を別府市に運搬するため同人と共に日豊線別府駅から同線大貞駅に到り同駅附近において取敢えず右衣料品代金の内入として一万円を同人に渡し次いで同駅附近の踏切りの近くで同人及び崎野某から包四個に荷作りした本件賍物たる衣料品の内二個をその賍物たることの情を知り乍ら受取つた上、之を他の二個を所持せる古賀高典と共に右大貞駅まで運搬した事実を認め得る所であるが、同時に、右売買の話合と言うのは被告人において衣料品の現物を見た上で買受けると言うことになつて居り又その引渡についても当初取決めた別府市を変更し前記衣料品運搬の帰途列車内で現物を見分けした上如何なる物を如何なる数量買受けるかを決定することになつていたのであつて、つまり本件衣料品に関する売買契約は未だその目的物も特定せず、又その目的物の引渡もなかつたものであるとも認定されるので原審が本件起訴にかゝる賍物故買の犯罪事実につき、その証拠なきものとして無罪の判決を言渡したのは原審に現れている証拠上止むを得ない所と認められるから此の点を非議し事実の誤認を主張する第一点の論旨は理由がない。

同第二点について。

原裁判所に於ける審理の経過に鑑み、前段第一点に関し説示した樣な事実関係にあることが明かにされてゐる以上、賍物故買の犯罪、事実についてはその証明なしとする外はないけれども、少くとも賍物運搬の犯罪事実を認定し得べき余地は存するわけであるから、斯る場合裁判所としては宜しく刑事訴訟法第三百十二條第二項の規定を活用し賍物運搬罪としての訴因の追加或は変更を命じ此の点につき双方に攻撃防禦の機会を与え審理を盡すべきであつたと認められる。然るに原裁判所が事こゝに出でず賍物故買の訴因のみについて審理判断したのは、訴訟指揮の適正を欠き審理不盡の違法があるものと言ふべく(尚原判決が蛇足と称して附記せる見解も妥当でないと考える)訴訟手続に関する右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、刑事訴訟第三百九十七條第三百七十九條に則り原判決を破棄すべく、而して前記訴因の追加乃至変更と第二審において爲すことは相当でないから同法第四百條本文により本件を原裁判所に差戻すことにする。

仍て主文の樣に判決する。

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